2018.12
【著者:村松 行人】
コンテンツ大競争時代が来た
⑩強まる映像配信への流れの中で(1/4)
降下に歯止がかからないパッケージ市場
先日、ケーブルTVで米国の人気ドラマ『SCORPION/スコーピオン』を観ていたら、劇中人物が「今日は色々大変だったから夜はビデオ屋さんで古い映画を借りてピザでも食べようか」といった台詞を口にしていて耳を疑いました。最新バージョンのステージ4、制作は昨年の2017年で古い作品ではありませんし、最新のITやハイテクがモチーフのドラマですから時代設定は現在でしょう。ドラマの舞台はロサンゼルスですから、実際にまだビデオ屋さんも何店か残っています。制作会社がCBSですからNetflixやAmazonへの嫌味かもしれませんが、米国でもまだレンタルもビデオ店も健在なんだ、と嬉しくなりました。
そうした中ではありますが、残念ながらここ数年パッケージ市場のスローダウンに歯止めがかかりません。DEG〔The Digital Entertainment Group〕のレポートによればDVD+BDの1月~9月期の売上高(セル)は前年同期比-14%の27.9億ドル、レンタルは前年同期比-16%の13.7億ドルでした。
一方、デジタル市場は好調です。今年はスタジオ各社の増収増益に直結するEST(Electronic Sell-Through) やVOD(Video On Demand)の市場が顕著に伸びて注目されています。
ESTは劇場公開直後の新作映画のダウンロード配信です。視聴者はiTuneやAmazon、Google Playなどから購入します。これまで伸び悩んでいましたがこの第3四半期には前年同期比18%増の6億2,400万ドルの高成長を記録してハリウッドを喜ばせました。しかしその背景には、作品によっては劇場公開直後に配信したり、パッケージ・リリースに2週間も先駆けて売出す、といった思い切った戦略があったようです。
また映像レンタルのデジタル版ともいえるVOD(Transactional video on demand)も好調です。iTuneやRedbox On Demand等からの新作映画のストリーミングで、料金や視聴期限はまちまちですがRedbox On Demandの場合は8時間視聴が可能で新作3.99ドル、旧作1.99ドルと格安料金です。第3四半期の成績は前年同期比10%増と好調ですが売上金額的には約5億ドルとまだまだ少なくこれからです。
DEGによれば上記のパッケージ(セル+レンタル)とデジタル映像配信(EST+VOD)の売上合計金額、つまり新作映画の二次利用市場の総売上は前年同期比-1%。EST市場が伸びた分だけパッケージ市場が縮小して業績的にはほぼバランスがとれた訳です。
しかし1月~9月期ではパッケージ・セルとレンタルの合計金額は約42億ドル、対するEST+VODの映像配信売上は約34億ドルですから、つまり総映像配信売上からNetflix等のSVOD売上を差し引けば、まだまだパッケージ売上の方か多いことを見逃すことは出来ません。
パッケージ市場をないがしろにしたり、上記のような必要以上のEST優遇は危険な事ではないでしょうか。