2019.3
【著者:行 達也】
「正義は一つではない」(1/2)
自分ぐらいの歳になるとテレビのニュースで流れる程度の社会問題なら大概のことは善悪の判断が付くんですけど、ここ最近のニュースで、何とも言えないというか、どういう立場を取るのが正しいことなのかがわからなくなったことがありました。捕鯨の問題です。
僕が小学生の頃、給食には当たり前のように鯨の竜田揚げはメニューにあったし、それに対して疑問に思うことなんてありませんでした。おそらくスーパーでも普通に売ってたはずです。大人になって、テレビでシー・シェパードという団体が日本の捕鯨船を邪魔しているという報道を見た時に初めて、鯨食は日本独自の文化(実際には鯨食は他の国でも残っているし、かつてはアメリカでも乱獲されていたようです)ということを知り、そして欧米を中心に「鯨食だなんて鯨が可哀想」という風潮が運動として盛んになってきたことを理解しました。その頃はぼんやり「まあ食文化の違いだから海外の人にとやかく言われる筋合いは無い」ぐらいに思ってました。
そこからまた数年を経て、海外のあるドキュメンタリー映画が話題になりました。タイトルは『ザ・コーヴ』。和歌山県太子町のイルカ漁の実態を動物愛護の観点から切り取った非常に生々しい内容で、この映画はアカデミー賞のドキュメント部門で賞を取ったにもかかわらず、反捕鯨派からの視点に偏っているとして、日本でも多くの劇場で公開自粛、もしくは中止などさまざまなトラブルに見舞われ、それがまた逆に作品への注目度を上げる結果になり、それまで国内では「歴史ある食文化」として統制が取れていたはずの世論が、徐々に「クジラが可哀そう」という層も生み出すことになっていきました。