2019.3
【著者:行 達也】
「正義は一つではない」(2/2)
何よりも決定的だったのが、昨年起こった、クジラ資源の管理を担う国際捕鯨委員会(IWC)を日本が脱退したニュースです。諸外国からの非難も含めて、大きなニュースとして取り上げられました。この時に我が国の一般人(特にリベラル層)の頭をかすめたのが、1933年の国際連盟脱退のことです。その後、日本は国際社会から孤立して、やがて太平洋戦争へと突入したきっかけとして、この脱退は日本人の心の中に深く刻みつけられていますが、それと今回の脱退は規模もジャンルも違えど、ワールドスタンダードから逸脱した行為という意味で近い印象に写ってしまうのは事実です。
問題はさまざまな要素が複雑に絡み合っていて、一筋縄には解決できないことはこの国際捕鯨委員会の長きに渡る歴史が物語っていますが、だからといって「私たちには直接関係がない」と匙を投げて良いとは決して思いません。それは、この国際捕鯨委員会の成り立ちで、反捕鯨派がNPOなどの市民団体を中心とした組織なのに対して、日本は政府が対応しているからです。つまり、反捕鯨派は上述の映画『ザ・コーヴ』などを使ったプロパガンダに長けているのですが、不器用な役人仕事の日本政府はこの伝統そのものを世界に向けて饒舌に説明が出来てない、というのが現在、界隈でよく言われていることのようです。だからこそ我々、一般人がしっかりと意見を持って、世界に発信していく必要があると感じています。
というのがザックリとした現状説明ですが、じゃあ自分はどうなんだ?と。
まず、反捕鯨派の反対する所以は「イルカは知恵を持った人間に近い生き物である。だから可哀想」に集約されています。これ以上でもこれ以下でもなくシンプルにそれだけの理由(イルカが体内に水銀を含んでいるという別軸の問題もありますが)で、それに関して言うと、先述の通り「食文化は地域ごとの独自のカルチャーなので、他人がとやかく言うモノではない」というのがまずありますが、我々が大好きな欧米の多くの国で反捕鯨運動が活発になっている映像を見せられると、数の論理として、正義が反捕鯨にあるような印象を受けてしまうのも否めません。こんな歪みがそれだけで戦争に直結するとは思えませんが、意固地は良くないと思います。そういう意味で2017年に公開された映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』(監督:佐々木芽生)は日本の意見をできるだけ冷静にアピールした良い作品だと思います。もちろんこの映画で結論を訴えていることはありません。対話の重要性を第一に、和歌山太子町の人々の営みを淡々と映し出すことによって、海外だけでなく、同じ日本人に向けても「キミたちも何かを考えるべきだ」ということを語りかけているような気がしました。日本人の奥ゆかしさを混ぜつつ、キチンとアピールする部分はするというニュアンスを含んだ、まさに捕鯨問題に限らず、これからの日本社会があるべきスタンスを暗示した名作だと思います。今でも、市民上映会等で観ることができるので、ぜひご覧になって、自分たちのこととして考えてみてはいかがでしょうか?
【行 達也】
1968年大阪生まれ。長年勤続したタワーレコードを退職後
2004年東京下北沢にmona records(モナレコード)を開店。
CDショップにカフェ、ライブスペースを併設した小さな音楽総合施設を目指す。
http://www.mona-records.com
現在、某CDショップのレーベル部門にて勤務。
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