2018.11
【著者:行 達也】
「METAL」「CrO2」「NORMAL」(2/2)
始めは怪訝な顔付きだったおばあさんもこちらの屈託のない笑顔(精一杯の)に「ごめんなさいね、針ならたくさんあるんだけどね」と応えてくれて、確かに壁をよく見たらちょっと尋常ではない種類の多さ(ざっと30種類ぐらい)のレコード針が売られてるのに気付きました。いや、今の時代でだと尋常だけど、昔のレコード屋だったらこれぐらいは当たり前だったかもです。「でも、ここにあるのは当時、返品も出来なかったいわば売れ残りなのよ。」
なるほどね、と納得しながら視線を隣に移すとそこにはこれまた2018年現在の世の中では信じられないぐらい大量の生カセットテープが売られているではありませんか!今となっては古道具屋的なお店で輸入モノのノーブランドのデッドストックを見たことはありますが、ココで売られているのももちろんデッドストックですが、あの懐かしのMETALテープまで売ってるんです!(そして、激レアなアイテムは非売品として展示も!笑)僕が子供の頃に使っていたラジカセには「METAL」「CrO2(クロム)」「NORMAL」の3種類の切り替えスイッチが付いていて、テープの種類によってその都度いじってたものです(ぶっちゃけ音の違いなんてよくわからなかったけど)。
もちろん、それを買ったところで使う用途もデッキもないので買いませんでしたが、その光景だけで一気にタイムスリップできました。最初は余りモノだったので安く売ってたけど、今となっては価値があるので現在は当時の定価で売っているようです(それでも相場と比べたらかなり安いもんです)。
おばあさんとしては自分の代でこの店を閉める覚悟は出来ているようです。「それでも自分が元気なうちは出来るだけ店を続けたいのよ。カラオケをやってる同世代のみんなはすごく元気だから、そういうお客さんたちが来て、話をしているだけでなんだか元気をもらえるのよね」と笑う姿を見て、なんだかちょっと泣きそうになりながらも安心しました。
YouTubeだったりストリーミングだったり、世の中の流れを変えることなんて出来ないと思いますが、今までお世話になった歌手の人たちは最後にこういうお店を回ってお礼参りすべきだよなぁって思いました。今、自分が売れっ子のアーティスト抱えてたら絶対に回るのになぁ。よしっ、売れっ子のアーティストを出すぞ!(そこからね)
【行 達也】
1968年大阪生まれ。長年勤続したタワーレコードを退職後
2004年東京下北沢にmona records(モナレコード)を開店。
CDショップにカフェ、ライブスペースを併設した小さな音楽総合施設を目指す。
http://www.mona-records.com
現在、某CDショップのレーベル部門にて勤務。
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