2019.4
第83回(2/2)
【著者:行 達也】
―コピーバンドをやってる人たちにとって音楽は『売れるもの』ではないんですよね。
「そう、彼らは他人の曲を演奏しているわけで、その曲でデビューしようと思ってるわけではないんです。ただただ、楽しむためだけに演奏している。でも、よくよく考えてみたら音楽ってまず、その初期衝動ありきじゃないですか。だからそんな原点を見せてもらった気がしました。そしてそれによって、私にとって音楽というものがまた楽しいものになったんです。」
―現在だと川崎のクラブチッタっていう大きなライブハウスで定期的にイベントをされてますよね。どうやってバンドを集めたのですか?
「最初はネットでコピーバンドを探して、いいなあと思ったバンドのライヴを観に行ったんです。で、その場で『今度、こういうイベントするんですけど出てもらえませんか?』って声をかけさせてもらって。」
―それは平岡さんお一人で?
「そうですね、趣味が高じただけなので他にスタッフとかもいませんでしたし(笑)。ただ、第1回って誰にもどういうモノだか見当が付かなかったので『なんか怪しいおばさんに勧誘された』ぐらいの感じだったと思うんですよ(笑)。でも、一部のバンドの方が熱心に話を聞いてくれて『じゃあ、一緒にがんばりましょう!』みたいな感じになってくれて何とか第1回をやることが出来たんですね。そのときは、ある市の「市制〇〇周年記念イベント」として開催して頂いたのでこちらの負担も少なかったんですけれど、第2回は完全に私たちの主催イベントとなりましたから何もかもが大変でした。不慣れな中での開催だったので散々な結果でしたが、中の結束は固まり、今思えばその後の布石になりました。第3回になると最初に乗ってくれたバンドの方々の協力により、『出たいんですけど』って問い合わせも来るようになりました。そのバンドの人たちが『すごくいいイベントだった!』って絶賛してくれたんですね。彼らはコピーバンド界では有名な人たちだったので、何百人という聴衆の前で演奏することは慣れていたんですけど、プロの音響さん、照明さん、ローディーさんがいて、こんなに演奏に集中できるイベントは他にないってものすごく喜んでくれたんです。彼らは第2回からスタッフも兼務してくれていて、もちろんステージ周りのスタッフは外部発注ですけど、そこ以外の運営はすべて出演者が自分たちで協力して作り上げていってるイベントなんです。」
―お話を聞いていて、つくづく『音楽って誰のもの?』って思いますよね。もちろんスターによる本人の歌だったり演奏が最高に決まってますが、曲そのものに魂があるから誰がやっても楽しいし、感動できるんですよね。我々が普段やってる若い才能を世に送り出して行く仕事としての音楽ももちろん素晴らしいし、誇るべきことだと思いますが、まずは音楽を楽しむっていうことが大前提にあることを忘れてはいけない気がしました。『売れる売れない』だけが尺度だと、あまりにもつまらないですよね。
「はい、私もそう思ってます。イベントに出てもらってるバンドのほとんどが有名グループのコピーバンドなので、観てる人たちがみんなで歌えるっていうのがポイントなんですが『こんないい曲あるんだ』っていう発見もあったりして、イベントの後、本家のファンになったりとか、予想してなかった拡がりもあってそういうのも良いなと思いました。でも、世間的というかライヴハウス界隈ではコピーバンドっていうのはオリジナルをやってるバンドよりもランクが下なんですってね!知らなかったんですよ。だって全く知らない“オリジナル”より、よく知っている曲の方が聴いてて楽しくないですか(笑)?」
―まったくその通りだと思います(笑)。
このインタビューからちょうど1か月後ぐらいに開催された「第9回邦楽トリバンフェスティバル2019」に遊びに行ってきたんですけど、演者もお客さんもみんなで歌って楽しんでる感じが最高でした。バンドが入れ替わっても、また知ってる曲をやってるからずっと楽しいんですよね。僕も何か大事なことを教わった気持ちになりました。
【行 達也】
1968年大阪生まれ。長年勤続したタワーレコードを退職後
2004年東京下北沢にmona records(モナレコード)を開店。
CDショップにカフェ、ライブスペースを併設した小さな音楽総合施設を目指す。
http://www.mona-records.com
現在、某CDショップのレーベル部門にて勤務。
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