2018.12
第81回(2/2)
【著者:行 達也】
―昔、ヤンキーで今、起業家って結構いますもんね。
「いや、ボク、ヤンキーじゃないです(笑)」
―わかってますよ(笑)。でもまあ、そのハングリー精神というか、なにくそって思いがセンスを磨かせたのかもしれませんね。ただ、僕が面白いなあと思ったのは、バンドで一定のところまで成功させたノウハウを持っているはずなのに、いざ、仕事を始めるってなったときに音楽と関係ないことからっていうのが(笑)
「離れたかったんですよ。悔しいから。一時期、CDは聴かなかったですし、ライヴにも行かなかったです。負けた感がどうしても拭えなくて。バンドで挫折したっていうことが。」
―なるほどね。僕がなんで音楽業界に入ろうと思ったかというと、自分でもバンドというか、何かしらの音楽活動をしてたんですね。でも、ただ何か違う仕事をしながら音楽をやってると、自分のやってることを客観的に見ることができないだろうな、っていうのがあって、きっと自信に満ち溢れたまま歳を取って、40を過ぎても『いやいや、オレはまだこんなもんじゃないぞ。まだまだこれから…』なんて平気で考えてるだろうと心配したんです。だから(笑)。でも、こうやって常日頃から、やれ解約だ、メジャー落ちだ、っていうのを目の当たりにしていると『音楽で食っていくなんて、並大抵のことじゃないぞ』っていうことだけは30歳ぐらいには気付いたんです。まあ充分遅いですけど(笑)。
「でもボクも結局回り回ってこうやってエンタメの仕事に関わることができたのは、やっぱり身も心も捧げられるから、というのと、業界が変わりつつあるっていうのが大きいですよね。広告業界、音楽業界、テレビ業界。穴ができるなっていうのが100%見えて、スタートアップっていうシステムがずいぶん浸透したので未来に投資する投資家が増えたんです。カルチャーっていう分野で売上が出なくても出資してくれる人たちがいるんだっていうのも動いたから気付いたんですけど。で、やってみよう!という気になったんです。だいたい、100~200人の会社って作る必要ないと思ってるんです。」
―ポジティヴな発想からスタートしてますよね。ボクらは反対(笑)。今まで売上の柱になってきたCDっていうのが、そのうちなくなってしまうかもしれない、だから新しいことを始めないと!っていう使命感です。でも、視点を変えると新しいことを始められるチャンスでもあるワケですけどね。
「印刷業界も一時、ヤバくなったのがネットプリントを展開することで、かつてより業績が上がったというケースもありますからね。」
―洋服なんかだと『なんだかんだ言ったって、実際に試着してみないと』っていう価値観が根強かったから、ネット通販の限界みたいなのがあったはずが、ZOZOスーツ一発ですべてひっくり返りましたもんね。いろんな業界で変革が起きつつあるんですよね。そういった中でレンタルCDって残る道はあると思われますか?もはやセルですら危ない状況で。
「レンタルCDっていう枠だけだと見えてこないかもしれないですけど、普段お付き合いしているところとか、クライアントにどう言われているか、とかお客さんはどうだったかっていうヒアリングをしていくと、何かしらのヒントが見えてくると思うんです。」
藪井さんは、業界それぞれの特性があるのを承知しながらも、非常にシンプルで普遍的に共通するセオリーがあると確信されていて、そこに当てはめていくことで解決の糸口が見つかるということを教えてくれました。こういった変革期だからこそ、ベーシックに戻って見つめ直すことが大事なのかもしれませんね。
【行 達也】
1968年大阪生まれ。長年勤続したタワーレコードを退職後
2004年東京下北沢にmona records(モナレコード)を開店。
CDショップにカフェ、ライブスペースを併設した小さな音楽総合施設を目指す。
http://www.mona-records.com
現在、某CDショップのレーベル部門にて勤務。
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