2019.1
【著者:村松 行人】
パッケージのサバイバル戦略
①頑張る米国のレンタル・チェーン(4/4)
リアル店舗ならではの販促着眼点
以前、これからの一般小売市場を大きく変えてゆくであろうスマートフォン決済やレジの無人化といったリアル店舗の効率化がレンタル店にとっては売り上げ不振やお客様離れを一層深刻にしかねないと書いた覚えがあります。上記Family Videoが力を入れている取組みはこうした合理化とはまったく対極にある「お客様とスタッフが一緒に楽しむ店作り」のようです。そして、そこにこそリアルレンタル店舗がこれから取り組むべき方向があると思います。
お客様にとって映像配信にはないリアル店舗ならではのサービスといえば①実際にパッケージを手に取って見る(楽しむ)ことが出来る、②店のスタッフと対話ができる(癒される)、③思いがけない作品との出会い(驚き)の3つではないでしょうか。
ショッピング・エンタテイメントという言葉がありますが、お客様のお楽しみは来店した瞬間から始まっているとも言えますから、この3つのエンタテイメントをお客様に提供する、という店作りの考え方がこれからの大切なポイントになると思います。具体的には
①パッケージが見やすい、手に取りやすい作品陳列・棚作り
店内をめぐって棚の前に立つ→面白そうな作品に気付く→作品に関心や興味を持つ→作品を手に取って見る→デザインや写真、裏表の情報を読む→借りて観よう、と意思決定する→作品をバスケットに入れカウンターに行く。といったお客様の行動を想定して棚作りやコーナー作り、レイアウトをする。
②店のスタッフとの対話
若いお客様など店のスタッフとの接触を嫌がる人も多いと思いますが、高齢化が進むこれからは会話やヒトの温もりを求めて来店するお客様が増えるでしょう。レンタル店にとってお客様との対話を大切にすることが益々重要になってくると思います。
ポイントはお客様ひとり一人に合った接客を心がけること。人はそれぞれで、スタッフとの会話を歓迎するお客様と接触を好まないお客様がいます。一声お客様に声を掛けてみて、それを見極めて応対するといった対応が大切です。少し古いですが「人を見て法を説け」は不変の接客術です。
③思いがけない作品との出会い
映像配信サービスはお客様が見たい作品が決まっている場合の検索には優れています。しかし「何か面白い作品はないかな~」といった漠然としたニーズや、思いがけない素晴らしい作品との出会い、あるいは自分の好みの新しい領域を広げたい、と思っている場合はリアルレンタル店には到底及びません。
そうした映像配信の弱点をカバーするのがAmazonやNetflixなどの「この作品を観た人はこんな作品も観ています」といったレコメンド・サービスですがその基本はユーザーの過去の視聴記録のデータに基づいたお勧めに過ぎません。
その点レンタル店ならば洋画、邦画、アニメ、バラエティその他のあらゆるジャンル、映画にTVドラマ、アクション、サスペンス、SF、ドラマ、コメデイ、ラブロマンス、最新作からレジェンド作品までありとあらゆる魅力的な作品がお客様の目の前に並んでいるのですから、お客様にとっては魅力だと思います。レンタル店がお客様に提供する作品の選択肢は作品数の豊富さとレンタル30年の回転データから無意味な作品をそぎ落とした在庫品揃えの質の高さとその数にあり、一朝一夕に真似の出来るものではありません。映像配信サービスは膨大な作品数を「売り」にしてはいますが実質的にはレンタル店の品揃えには及ばないと思います。
お客様が店内をめぐる回遊コースに沿ってジャンルやコーナー、棚それぞれにお客様が思わず手に取って見たくなるような魅力的な作品をセレクトし陳列し、お客様に発見して頂く、そうした棚作りが不可欠です。
これからのレンタル店の挑戦課題はお客様の「今夜の素晴らしい1枚の作品との出会い」を実現することではないでしょうか。
【村松 行人】
田辺経営(株)、教育出版(株)を経て現代教育企画設立。
1986年、ビデオショップ経営研究会を主催。
全国550余のビデオレンタル店の経営診断・主導をしている。
衛星放送・スカイパーフェクトTV Eチャンネル番組審議委員長。
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